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こんなことやってます!報道番組部

ディレクターとして、ひとりの人間として考えたい

クローズアップ現代+「#MeToo広がる世界 でも日本は…」

NHK総合で25年間続く報道番組『クローズアップ現代+(プラス)』でディレクターをしています。
政治・経済・国際問題、社会問題やトレンドまで多様なテーマを追いかけるこの番組のモットーは、“不確実な情報の海を進む現代人のための羅針盤”。きょうは、2018年1月22日に放送した「#MeToo広がる世界 でも日本は…」についてお話しします。

Gmedia こんなことやってます 飛田陽子

 

ハリウッドから世界へ 広がる#MeToo旋風

 私たちの心を豊かにし、力強く生きるための活力を与えてくれる映画。
華やかに見える映画づくりのなかで、権力を笠に着た者が多くの人々の夢を食い物に私欲を満たしていたことが明らかになりました。

 2017年秋、アメリカ・ハリウッドの大物映画プロデューサーによるセクハラや性的暴行を、被害を受けた女優やモデルが告発。プロデューサーは業界を追放され、経営していた会社も破綻する事態に発展しました。

ハリウッドで高まるセクハラ撲滅の機運を一般の人々にも広げたのは、女優のアリッサ・ミラノさん。「もしセクハラや性暴力を受けたことがあるならme tooとつぶやいて」と発信したツイートがきっかけに、映画や芸能の業界ではない人たちの間でも、自分の被害経験やセクハラ・性暴力に対する考えを「#MeToo」をつけて発信するうねりが世界中に広がったのです。『クローズアップ現代+』でもこの動きに注目し、取材を始めることになりました。

日本の#MeToo  “声をあげた人が孤立する”ことも

 私の役割は、日本国内における#MeTooの様相を取材し、伝えることでした。12月半ば以降、日本語版twitterにもあふれた#MeTooのツイート。セクハラ(性暴力)に苦しむ人、見て見ぬふりをする人、そして、無邪気とも言える低い意識で誰かを傷つけている人。すべてに思い当たる節がありました。“これといって酷いセクハラを受けた覚えもなく、誰かのセクハラに関与しているつもりもなかった”私のような傍観者がこうした感触を覚えるということだけでも、この社会に#MeTooというハッシュタグが登場した意義を実感します。

 しかし、私が取材を始めた当時、日本における#MeTooは、「ハッシュタグのトレンドのひとつとして消費されてしまった」気配もありました。12月17日時点で5万件を超えていたツイートが、1ヶ月もしないうちに激減していた為です。(NHK SOLT調べ)
「本当に悔しかった」「私だけでなく他の人にも被害が及んでいる」…切実な声の代わりに目立ってきたのが、「なぜTwitterで声をあげるのか?」「嘘のつぶやきが事実のように拡散されたら恐ろしい」などという、#MeTooの動きに対する疑義でした。私の周囲にも、「いまの時代、会社にセクハラ相談窓口くらいあるでしょ?どうして被害をTwitterで公開するの?」と言う人がいました。

 確かに、SNSである以上、事実無根の内容が拡散されてしまう危険性も否めません。しかし取材で#MeTooを使って自身の経験を打ち明けた方とお会いすると、多くの方々が被害を受けた時に相談窓口を利用する・近くの同僚や先輩に相談するなど、できる限りの対応をとっていました。しかし、組織にうまく取り合ってもらえなかったり、過去に同じ思いをしたことのある先輩から「我慢するしかない」と言われるなど、「近くの第三者」に向かって声をあげても状況が好転しないというケースは珍しくありません。#MeTooに寄せられた声の多くは、実社会で行き場を失った想いの蓄積であり、我慢と悔しさの塊であると私は思います。

「#MeTooがなかったら、自分のなかにある“嫌だ”という感情を尊重できなかったと思う」…取材に応じてくださったある女性の言葉です。こうした声は、決して特定の誰かを陥れたり、一方的に糾弾したりするためにあげられた声ではないことも書き添えておきたいです。今回取材に応じてくださった方全員が、#MeTooで告白することで誰かを貶めるつもりはないと話していました。しかし、タイムラインの上では、つぶやいた人達に対する心ない誹謗中傷の言葉が投げかけられています。ある女性は、「寄せられるバッシングが自分のツイートに対するリプライ(返信)でなくとも、すべて自分に向けられた言葉のように感じてしまう」と話していました。「#MeTooの動きを応援するつぶやきを投稿したら、アルバイト先の男性と関係が悪くなってしまった」という女性にも出会いました。SNS上でも現実においても、日本では当事者が声をあげることに際し、まだ共感よりも冷ややかな目線の多さが勝る社会なのだと思います。せめて私たちは#MeTooに寄せられた気持ちを無視せずまっすぐ伝えたい。そんな思いで制作にあたりましたが、果たしてどう伝えればよいのか。正直なところ、悩むこと、考えさせられることの連続でした。セクハラをはじめとした性暴力について、これまで見聞きはしていたものの、いかに自ら議論することを避けてきたのか。こうした逃げの姿勢こそが、被害にあってつらい思いを抱えている人をひとりにしてしまってきたのかもしれない。ディレクターとしても、ひとりの人間としても深く反省させられました。

“これから”のために

 今回は共に取材を進めた記者・ディレクター、プロデューサー、そして何より取材にお応え頂いた沢山の“#MeToo当事者”の方々の声に導かれながら、番組を放送するに至りました。しかし、#MeTooをめぐる状況は、いまも動き続けています。フランスではシアパ男女平等担当大臣のもと、国をあげたセクハラ対策が始まりました。今回の番組では男性から女性へのセクハラ・性暴力の事例だけを取り上げましたが、#MeTooで告白された事例のなかには、被害者が男性であるケースや同性間のハラスメント、あるいはLGBTに対するハラスメントを綴ったものもあります。そして、#MeTooというハッシュタグで浮き彫りになっていないだけで、いまも社会のなかで泣き寝入りしている人たちが少なからずいるのだと思います。
 セクハラや性暴力を無くすために何が出来るのか。すぐにゼロにすることはできなくとも、声をあげた人を孤独に追い込まないために日ごろからどんな行動ができるのか。テレビディレクターとして、ひとりの人間として。“これから”のためにできることを考え続けたいと思います。