G-Media 現場にフォーカス

こんなことやってます!国際映像部

両陛下パラオ御訪問を現地から生中継

2015年4月、天皇皇后両陛下が太平洋戦争の激戦地となったパラオを初めて訪問されました。青い海を背景に、戦没者の慰霊碑の前で静かに祈り続ける両陛下のお姿は、戦後70年を象徴するシーンとなりました。この歴史的な瞬間を伝えるために、現場で生中継などの伝送オペレーションに携った回線コーディネーターの体験を報告します。

 

国際映像部から現地派遣へ

70年間平和を訴え続ける零戦

両陛下のパラオ御訪問の映像を東京に送り込むため、NHKと民放5社が共同で組織する映像伝送のジャパンプールの代表として、国際映像部から私と同僚の2名が現地に派遣されることになりました。これまで様々な国に出張して、生中継や映像伝送の現地オペレーションを経験してきましたが、パラオは初めてでした。

日本から3,200km南に位置するパラオは、日本から直行便もあり、5時間ほどで行ける楽園です。長く日本の統治下にあったこともあり、今でも「ベントー=弁当」、「ツカレナオス=乾杯」のような日本語が現地化して使われるなど、日本文化も根付いています。大変親日的で、商店で水を買おうとすると「お金はダイジョウブ(←これもパラオ語)」と言われるほどです。現地では両陛下の御訪問を、国を挙げて歓迎している様子が、あちこちで見受けられました。

想像を超えた現地オペレーション

西太平洋戦没者の碑

今回の両陛下のパラオ御訪問で、最も注目されたのは、ペリリュー島での「西太平洋戦没者の碑」への御供花でした。この歴史的な映像を東京へ確実に送り込み、放送につなげることが、私たち回線コーディネーターの大きな使命です。

ニュース映像の伝送手段は、インターネットが主流になりつつありますが、今回の伝送オペレーションでは、パラオのインターネット環境が大丈夫なのか確信を持てませんでした。そこで、NHKが衛星を使って映像伝送できる小型アンテナの伝送装置を現地に持ち込むことにしたため、ジャパンプールはその装置を借りて映像伝送する計画を、パラオへ向かう前に立てていました。

洞窟に設置された伝送拠点

しかし、現場で待ち受けていたのは、想像を超える過酷な環境でした。伝送装置は、戦時中に旧日本軍が使っていたと見られる塹壕のような洞窟に設置しました。そこから慰霊碑までは直線距離で50m程あります。その間は、ゴツゴツと溶岩が固まった上を歩きながら、中継伝送用のケーブルを敷設しなければなりません。この日のペリリュー島は雲ひとつない快晴。「紫外線は日本の8倍」と聞いていた通り、気温30℃を超える熱波が容赦なく体の水分を奪っていきます。それでも送信テストなどの事前準備を何とか完了し、本番を迎えました。

激しい緊張感の中での生中継

両陛下の慰霊碑への御供花は、日本時間の午前10時45分から11時05分までの20分間の予定です。NHKは特設ニュースを組んで、両陛下の御供花を生中継することに決定。11時台に昼のニュースを放送する民放各社からも、映像を一刻も早く入手したいという要望が相次ぎました。絶対に失敗が許されず、現場では緊張感が一気に高まりました。

私も過去に経験したことがないほどの緊張感に襲われましたが、本番の中継伝送オペレーションをエラーなしで乗り切ることができました。その後も、カメラマンが撮影した映像テープが続々と届き、4時間ほぼノンストップで映像を送り続けて、慌しくオペレーションは終了しました。

報道の原点を見つめて

パラオでは、70年という時が、悲惨な戦争の記憶を包み隠しているかのようでしたが、ジャングルに一歩足を踏み入れると、撃墜された零戦や戦車がそのままの状態で放置されており、その爪痕を今も残していました。今回の生中継や映像を通して、生存者や遺族の方々をはじめ、戦争を知らない世代にも、両陛下の思いや平和の尊さがしっかりと伝わってほしい。現場で伝送オペレーションに携りながら、それを心から願わずにはいられませんでした。

私たちは、普段、海外から送られてくる大地震やテロ事件などのニュース映像を、東京のNHK放送センターで受信する役割に専念していますが、時には、直接現地に行って映像を送る役割も果たします。今回の伝送オペレーションは、自らも現場に立つことで、「何を伝えるのか」を深く考え、報道の原点を見つめ直す貴重な経験ともなりました。

(2015年12月)