G-Media 現場にフォーカス

こんなことやってます!映像制作部 

勝てない相手はいない~錦織圭 成長の軌跡~

2015年秋、錦織圭の強さの秘密を紹介する番組が、『ABU(アジア太平洋放送連合)テレビ・スポーツ番組部門奨励賞』と『アジア・テレビ賞2015ベストスポーツプログラム部門奨励賞』を受賞した。この番組は、コーチのマイケル・チャンとの一年間の軌跡を通して、急成長した錦織圭の強さの秘密を独自入手したデータを分析して描いた。

 

編集の腕を試す絶好のチャンス

私がこの番組を編集することになったきっかけは、錦織圭が「2014全米オープン」で準優勝した一ヶ月後、番組担当プロデューサーから、わずか一年足らずで世界ランキング17位から5位まで急成長を遂げた錦織の番組を一緒に作らないかと誘われたことからでした。 スポーツ編集をしてきた私にとって、世界のトッププレーヤーの番組を作ることは、自分の編集の腕を試す絶好のチャンスだったのです。45分間のドキュメンタリーを作り上げるうえで特にこだわったのが、コーチのチャンが錦織に語ってきた数々の"言葉"と"緻密な戦術"の映像表現でした。

編集でこだわった“言葉"の映像化

チャンが錦織に語り続けた言葉は、「自分は必ずいいプレーができる」。そして授けた戦術は、テンポの速い攻撃で相手を翻弄する前で打つ攻撃的テニス。これには狙いがあったのです。言葉で語りかけ過酷な反復練習を徹底的に叩き込むことで錦織に自信をつけさせることでした。“自分を信じろ。自分を信じる力を手にした君はもう一年前の君ではない"と繰り返し語り、錦織のメンタルを鍛えていったのです。

編集で苦労したのがこのシーンでした。チャンは交渉の末に取材が出来ましたが、肝心の錦織はメディアの過熱で、制作期間内に実験や特撮・ユニ取材できなかったからです。 このため編集では、メディアに公開された練習と事前のインタビューと試合映像、写真で構成しました。ここで一番こだわったのはチャンが錦織に語ってきた言葉をのせる映像の選択です。チャンの言葉には強いメッセージ性があり、錦織が大きく成長する過程で重要な鍵となっているからです。この言葉をしっかり伝えるために、錦織の心情を表現するために、本来は分析で使う1秒間1000コマのハイスピードカメラの映像を使用。ただ映像を使うのではなく色調を映像加工して、この錦織の映像をチャンの言葉のバックにイメージカットとして使用。これによって2人の微妙な距離感を演出することができました。

ビッグデータが明らかにした“緻密な戦術"

チャンの指導を受ける前と現在の錦織のプレーの進化を裏付けるために、番組では2014全米オープンとツアーファイナルでの錦織と絶対王者ノバク・ジョコビッチの全ラリーを100分の一秒、ミリ単位で記録した「トラッキングデータ」を独自入手しました。「トラッキングデータ」は、ボールのインアウトを判定するチャレンジングシステムの元となる膨大かつ詳細な数値データで、番組ではこのビッグデータを専門家の協力のもと、三次元空間に完全再現して分析していきました。

ジョコビッチとの1度目の対戦となった全米オープンでは、錦織独特の「前で闘うテニス」が功を奏し接戦の末に勝利。日本人選手初の全米オープン準優勝の快挙を成し遂げました。この時、自身の象徴ともいえるバックハンドの“ダウンザライン"が生まれたのです。 しかし、2度目の対戦となったツアーファイナルでは、ジョコビッチの戦術に封じられ ストレートで敗れました。ビッグデータを元に映像を重ねたことで、両者の緻密な戦術や心理の微妙な変化を丁寧に描き、テニスの頭脳戦の面白さに迫ることができたと感じています。 今回の番組は、これまで分析されることのなかったテニスを理論的な視点から構成し、 進化を続ける錦織が新たなプレッシャーや自らの心の壁に向き合う姿を描けたと思います。 そして、“自分を知り、自分を信じる事が出来れば勝てない相手はいない。"という錦織 の信念。私たちの人生にも生かせるこの言葉の重みを、しっかり伝えることができたと感じています。

(2015年)